インタビュー

  • HOME
  • インタビュー

「緩和ケア」の意味を誤解なく知ってもらいたい。

緩和ケアは、看取りとは異なります。少しずつ言葉は浸透してきましたが、まだ誤解が多いように感じています。より多くの方に在宅緩和ケアを知ってもらい、ご家族で幸せな時間を過ごせるお手伝いができればと思います。

先生が緩和ケア・在宅医療を始めたご理由を教えてください。

もともと私は消化器のなかでも食道外科が専門で、大学病院では食道がんの患者さまを診ることが多かったんです。当時は現在のように病気によって分業化されておらず、化学療法も緩和ケアも看取りも、同じ病棟でおこなわれていました。そのころはずっと手術や治療をおこなう医師として研鑽を積んできましたが、治療だけを優先することに疑問を持つようになったんです。治療はもちろん大切ですが、患者さまの苦しみまできちんとケアすることはできないかと…。もっと別の形で患者さまのお役に立てることがあるのではと思い、緩和医療に携わるようになりました。
実際に在宅緩和医療をおこなってみると、必然的に看取りの場面にも立ち会いますが、ご家族の笑顔を見られることも多いです。もちろん近親者が亡くなってしまうのは悲しいことですが、その方の希望をかなえてご自宅で最期を過ごせたことは、患者さまはもちろんご家族のためになると考えています。ご家族の泣き笑いの表情は、私にとっても医師としてのやりがいになっています。

診療の際に心がけていることを教えてください。

外来診療でも訪問診療でもそうですが、お話をよく聞かせていただくようにしています。たとえ同じ病気を抱えていても、人によって考え方はまったく違います。その方が何を大切にされているのか、どのように生きていきたいのか、その方の思いをきちんと把握することで、私がどうお役に立てるかを考えられるからです。
また、緩和ケアでは患者さまがストレスなく楽に生活できることをいちばんに考えています。身体に症状があればお薬などで症状を少しでも軽減したり、心の悩みがあれば話を聞くことも治療のひとつです。それは患者さまご本人だけでなくご家族の方に対しても同じことだと考えています。たとえご本人がご自宅にいたいからといってご家族が無理をしては疲弊してしまいますので、ご本人も家族も全員が自宅で心地よく過ごせる環境づくりに努めています。

今後力を入れていきたいことはなんですか?

以前よりも「緩和ケア」という言葉は広まってきたと思いますが、一般の方だけではなく、医療従事者にもまだまだ誤解されている部分が多いようです。緩和ケアは、看取りという意味ではありませんから、末期の治療だけに用いられるものではありません。それに、緩和ケアは終末期だけではなく、治療のあるなしにかかわらず、患者さまがストレスなく生活するためのものだと考えています。多くの人に正しく理解してもらって、在宅緩和ケアを広げていけたらいいですね。
また、実際に緩和ケアをおこなってみると、患者さまやご家族の方から求められていることが医師や看護師だけでは対応できないことが多くあるように感じました。難しい部分ではありますが、理学療法士やアロママッサージなど、医療の枠を超えてさまざまなニーズに応えられる在宅緩和ケア医療を提供できるようにしていきたいですね。

365日24時間対応されている理由を教えてください。

やはり患者さま・ご家族の方に不安なく過ごしてほしいという思いからです。週末や夜間に急なできごとが発生した際、連絡が取れるようにしていますし、お電話いただければまずは看護師が対応し、必要に応じて医師がご自宅に伺いします。学会などでどうしても医師が行けないときには、代診の医師が訪問するように手配します。このように医師・スタッフが一致団結して、緊急時もサポートできるように体制を整えています。

最後に患者さまにメッセージをお願いします。

よく「家族に迷惑をかけたくないから入院する」という声もお聞きしますが、迷惑をかけてもありがとうといえるような間柄であれば、自宅で過ごすことを考えてみてもよいのではないでしょうか。もちろん考え方は人それぞれで、自宅が絶対に良いといっているわけではありません。一緒に悩みながら、よりよい方法を考えさせていただければと思いますので、お気軽にご相談ください。患者さまやご家族の方が、楽に、無理のないようにご自宅で生活できるように、お役に立てれば幸いです。